結んで開かず(十四)

 借りていた本を返しに図書室に来た。返却カウンターに座っていたのは、三学期に僕のクラスに転入してきた裕美だった。
「あ、図書委員だったの?」
「うん。先生に頼んでしてもらった」
「そうなんだ。あ、そういえば、今ちょっといいかな」
「うん?うん。誰も居ないし」
「裕美さ、K市から来たんだよね」
「うんうん」
「オレ卒業したら寿町に行くんだけど、どのへんだった?」
「へー、そうなんだ。じゃあ二中?」
「うん」
「わ、じゃあすごい近くだよ」
「お、まじ?なんかすごいね。入れ替わりみたいな」
「あは、そうだね」
「じゃあ友達とかどんな感じだった?」
「あー、うーん。そうだなぁ」裕美は目線を下げて、その口元は力が無く、辛うじて笑みを保っているように見え、前髪に隠れてしまった目は、影の中に逃げ込んだかのようだった。あまり過去の事を話したくないのだろうか。
「まぁ、行ってからのお楽しみだな。こっちにはもう慣れた?」
「うん。みんなやさしいし」
「だよね。オレも転校してきたんだけど、なんか、みんな会った瞬間友達、みたいな感じでびっくりするよね」
「うんうん。わかる。思ってたのと全然違くて。いい方にだけど。うーん、私を縛っているものは、観念なのだから、みたいな」あはっ
「あ、知ってる。それを一打のうちにときはなってくれる力を持つ。でしょ」
「わ、すごい。何で知ってるの?」
「いや、まぁ読んだことがあって」
「男子で珍しくない?」
「え、なんだよ。いいじゃん別に」無意識に口を尖らせてしまった。
「あは、うんうん、いいけど。じゃああれだね、噂の彼女に借りたのかなぁー?」
「え、なにそれ、いないよ」
「あれ、そうなの?五年生の女子と」
「あ、いや、付き合ってはないけど」
「はないけどぉー?」
「なんだよ、いいじゃん」
「告っちゃえー」あは
「なんでそうなるんだよ、いいだろ、うん、ほら、オレ居なくなるし」
「あー、気にしなくていいんじゃない?」
「そうなの?だって、ほら」
「んー、その子の事は知らないけど、言われたら嬉しいんじゃない?多分。よっぽど嫌いじゃない限り。うん」
「うーん、てか、噂って何?誰から?」
「あは、女子にはねー、ネットワークがあるんですー」
「なにそれ、怖えーな」
裕美があはっと笑うと、ガラガラと図書室の戸が開いて、本を持った女子が入って来た。
「あ、じゃあ、それ、返却しといて」
「うん、しとく」
僕は足早に図書室を出た。