BLACK PEPPER(1)

シカゴは第二のゴールドラッシュに沸いていた。

もちろん、鉱脈が見つかったわけではない。ヨーロッパを中心に世界が軍備拡大にむかっており、元々巨大な工業地帯を持つイリノイはさらに発展を遂げ、国内における商工業、交通、政治、財政の中枢的存在になりつつあった。イリノイ川を経由して五大湖ミシシッピ川へと続く水脈は、良港を持つシカゴに莫大な金を流入させた。金が集まれば、人も集まる。ヨーロッパからの移民や、南部の田園地帯からも働き口を求めて、大移住ともいうべき人口の爆発的増加が起こった。そしてイリノイの人口の八十%がシカゴを含む北東部に集まっていた。サチはグリーンランドの豚を見ながら、ウィスキーを口に含んだ。アルコールの匂いがきつく、味もしかり。喉が火傷しそうだ。質が悪い。唇をなめながら一つ閃いた。杯を持ったものがすべてを手に入れるのではなく、すべてを手に入れたものが持てる杯なのではないか。そこまで考えて、自分がさほど興味のない噂だと我に返り、ひとり苦笑いをした。

考え事をしていたせいか、隣に女がいて、しかもこちらを見ていることに気付くのが遅れ、内心舌打ちをした。自分のあずかり知らぬところで自分に関することが起こるのが好きではなかった。

「サチね」先に口を開いたのは女の方だった。

「イリップか」サチは最後の一口を呷り、また苦笑した。

「なにか面白い事でもあったの」

「男かと」

「こっちも、女かと」

サチはまた一つ、苦笑した。