BLACK PEPPER(2)

「ほら、よく言うだろ」アサは愉快そうに煙草の灰を落とした。はぁ。僕はアサが何を話し出すのか、思案を巡らせる。

インディアンサマーは昼寝しろって」アサは得意げに煙草の煙を吸い込む。いや、聞いたことない。

「それはあなたの願望」と横に座っていたイセが笑う。子供を見守る母親のようだ。アサは煙草の煙で輪っかを作るのに夢中になっている。この男が「本当にボスなのか。と思ったでしょ」とイセが僕の考えを継いで言う。「適当なのよ。基本」とまた笑う。

「やる時やりゃあいいんだよ」

「いつも適当じゃん」

「まだやる時が来てないだけだ」笑いながら煙草をガラスの灰皿に押し付ける。その屈託のない表情は、やはりボスとしての風格も威厳も貫禄もない。あるのは、しいて言えば自由か。

「アサさん、マルコがきてるぜ」ノックの返事を待たずに開いたドアから顔を覗かせたのはゼロだ。

「ああ、通していいよ」

「そう言うと思ってもう連れてきてる」ドアを手で押さえているゼロの前を男がするりと入って来た。痩身だが鍛えた胸筋がボタンダウンの上からでも分かる。この男がマルコか。

「マルコ、牧場を任せることになったサチだ。サチ、こいつ、マルコ」アサが紹介してくれる。

「噂は聞いてる」僕は手を差し出す。

「噂になるほど何かを成しちゃいない」マルコが握手に応える。その感触はやはり、鍛えられてそうだ。